昨年のサッカー女子ワールドカップ(W杯)で優勝した「なでしこジャパン」が、ロンドン五輪日本選手団の先陣を切って、25日午後5時(日本時間26日午前1時)キックオフのカナダ戦に臨む。FW高瀬愛実(めぐみ)選手(21)は家族への思いも胸にピッチに向かう。サッカーの楽しさを教えてくれた兄は、16年前に事故で脳に障害を負い、以後一度も意識が戻ったことはない。兄のため、支えてくれた家族のため--。日本女子サッカー界初の五輪メダルを目指す戦いが始まる。
高瀬選手は男2人、女3人の5人きょうだいの末っ子として、北海道北見市で育った。長男の学書(まなふみ)さん(26)は地域のチームのエースストライカー。「うちの子はサッカーというより、お兄ちゃんにあこがれてサッカーを始めた」と父健二さん(56)。高瀬選手も学書さんの背中を追ってボールを追い掛け始めた。
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悲劇が起きたのは、96年5月。小5の学書さんは校庭の遊具のロープに首を引っ掛け、心肺停止に。一命は取り留めたが低酸素脳症に陥った。1年間、母美年(みとし)さん(58)は入院先の病院でつきっきりに。健二さんが深夜まで仕事と家事をこなした。
そんな両親を見て育った高瀬選手。北海道文教大明清高校(札幌市)時代には心肺機能の強化のため、30度を超える真夏日でもマスクを二重、三重にしてグラウンドを走った。「練習は手抜きをせず、試合では泥臭いプレーで点を取った」と監督の高崎裕治さん(61)は振り返る。
学書さんについて、「サッカーをしていたらきょうだいで一番うまかったはず」と話す高瀬選手。試合や練習の前、必ず行う儀式がある。目を閉じて直立不動で精神統一を図る。思うのは恩師、両親、そして兄のこと--。
「メグはサッカーをやれることに感謝している」と美年さんは言う。高瀬選手が学書さんの枕元でこう報告する。「メダル取れたよ」。その光景を家族は思い描いている。
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