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おばあちゃんの最後の時間

投稿日:

おばあちゃんの最後の時間。福岡市の臨海地区にある総合病院の悲しい話です...

周囲の繁華街はクリスマス商戦の真っ只中でしたが病院の玄関には大陸からの冷たい寒気が潮風となって吹き込んでいたと思います...

そんな夕暮れ時心肺停止状態の老人を乗せた救急車がERに到着しました...

老人は88歳...確認すると瞳孔は完全に散大し医学的には死亡確認が出来る状態となっていました...

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茶色く朽ちたような身体にパリッと糊の利いた白いシャツが印象的でした...

一緒に救急車に乗って来た80歳の妻の話ではその老人は自宅の居間でテレビを視ていたはずだが妻が買い物から帰って来た時には息をしていなかったとのことでした...

恐らく心臓発作を起こされたのでしょう...

また長らく肺気腫を患っていたようでまあ老衰による死と受け止めても良い状態でした...

僕は救急当直だったので救急部医長の指示の元心臓マッサージを開始しました...

しかしこれは患者の妻が死を受け容れるまでのデモンストレーションでもありました...

そこに居る医療スタッフの誰もが妻が心臓マッサージについて

「もう結構です...ありがとうございました」

と言うのを待っていたのです...

救急の現場ではよくある光景でした...

しかしその腰は折れ何かに捉まっていなければ立ってすら居られないような妻が5分後に下した判断は経験の長い救急部医長に言わせても初めてのことだったそうです...

妻は心臓マッサージをしている僕の傍によろよろと歩いて来てこう言ったのです...

「あのぅすいまっせん...あたしにやらせてはもらえんとでしょうか...すいません...お願いします...教えてください」

僕は呆気に取られて医長を振り返りました...

医長もびっくりした顔をしていましたが一言

「教えて差し上げなさい」

と僕に指示しました...

看護婦が背の低いおばあちゃんのために急いで足台を持って来ました...

台に登ったおばあちゃんに僕は手の置き場所と力加減とタイミングを手短に教えると

「わかりました...これで良かですか?」

と言って弱々しくはあるけれども正確なタイミングで心臓マッサージを開始したのです...

僕が小さく頷き

「お上手ですよ...それで結高です」

と言うとおばあちゃんは満足そうに何と微笑みすら溢して夫に語り掛け始めたのです...

「お父さん...あんたはなあんも自分のことができんかったけんあたしがずっと一緒におってやったとよ...

しまいにゃ心臓すらあたしが動かしちゃらんといかんごとなって情けなか人やねぇ...

でもねあたしは幸せやった...楽しかった...覚えとるね姪浜であんたが喧嘩した時のこと……」

心臓マッサージを続けながら夫に訥々(とつとつ)と語り出したおばあちゃんに救急部のスタッフたちは呆然としました...

一体何が始まったのかと他の仕事をしていた看護婦たちも集まって来たほどです...

しかし医長は片手を振ってスタッフたち全員に病室を出ろと合図しました...

アンビューバッグ(人工呼吸をするための器具)を押していた看護婦もその場を外されました...

僕もおばあちゃんの後ろで呆気に取られていましたがハッと気が付き急いで外に出ました...

こうして病室は妻と真の意味で死を迎えつつある夫だけとなったのでした...

それから10分ほど経過した頃でしょうか...

病室のドアが開き妻が出て来ました...

そして救急部のスタッフたち全員に繰り返し深々と頭を下げおばあちゃんは言いました...

「御迷惑をお掛けしました...もう結構です・・・」

おばあちゃんの目には涙の跡が残されてはいましたがしかし満足そうな微笑みを浮かべていました...

恐らくたった今逝ったばかりの老人もそうに違いないと思いました...

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本当に泣ける話を集めてみました・・・。


おばあちゃんがくれたもの
素敵なおじいちゃんとおばあちゃん

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