お願い・・・。
最後のお願い・・・。
「雪をとってきて…おねがい、雪がみたい…」
貴方はそう言って、雪をほしがりましたね...
季節外れの雪を...
あれから何年も時が経ちました...
貴方は、ゆっくり休めているでしょうか...
私に向かって、雪がほしいとせがんではいないでしょうか...
貴方の癌が発覚したのは、ちょうど今頃、梅雨時でしたね...
貴方が一番初めにそのことを報告したのは、両親ではなく恋人の私...
「私ね、癌が見つかったの...絶対元気になって帰って来るから、待っててね」
貴方がそう言ったことを、よく覚えています...
貴方がなぜか笑っていたことも...
ここは田舎...大きな病院などあるはずもなく、貴方はここから遠く離れた街の病院に入院した...
私はできることなら、毎日お見舞いに行きたかったんだよ...
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でも…、私にも大学があった...
行きたかったけど、大学の講義を受けていたんだ...
貴方も、
「大学に行きなさい、貴方の夢を叶えて」
と言ってくれたから...
本当に、すぐ治るのだと思っていた...
でも、癌は貴方の身体を確実に蝕んでいて...
ようやく得た休暇を利用し、貴方の元に駆け付けたんです...
もう既に貴方は起き上がることすら苦しいというところまで、悪化していた...
それでも貴方は、私に大学の話をしてくれとせがんだ...
貴方の笑顔は、変わらず眩しかった...
そして貴方は言ったんだ...
「雪をとってきて…おねがい、雪がみたい…」
私は困った...こんな真夏の本州に、雪があるはずがない...
でも貴方は、冬は毎週スキーに行くぐらい、雪が大好きだった...
「…今から取って来るよ」
私がようやくそれだけ言うと、貴方は満足げに笑っていましたね...
私は貴方のために、スケッチブックを置いて行きました...
貴方が寂しくないように…...
雪景色の次に好きな絵を、沢山描けるように…...
私に残されていた道は、一つしかありませんでした...
「富士山に登るんだ」
という道が...
そこぐらいしか、真夏に雪が残っているところなんて、考えられなかった...
私は富士山にクーラーを持って行き、ちょっとだけ雪を持って行ったんだ...
貴方のために...
山を下りた頃には溶けかかっていたけれど、それでも私は貴方の元に運びました...
だけど、私が帰った時には、貴方は既に旅立っていました...
彼女の母から話を聞くと、私が居なくなった途端、容体が急変したらしい...享年19歳だった...
最期まで傍に居れば良かった...
私がそう後悔した時、母親は、
「これで良かったんです…」
と言った...
理由を聞くと、雪が見たいというのはただの口実で、本当は私に心配をかけたくなかったからだって…
「あの子の彼氏でいてくれて、本当にありがとう・・・」
沢山、感謝された...
貴方と貴方のお母さんに一番感謝しているのは、私の方なのに...
ああ、くそっ...
間に合っていれば...
悲しくて涙も出なかった...
その時、病院のベットの脇にあるサイドテーブルの上に、置いてあるものを見つけた...
私が渡したスケッチブックだった...
そこには、一面の銀世界が描かれていた...
貴方が描いた、最後の絵...
その裏に、メッセージが残してあった...
「私が居なくなっても、悲しまないで!私は、雪と一緒にいつも貴方の傍に居るから!!大好きだったよ!ありがとう!!」
今度こそ本当に、涙が零れ落ちた...
貴方は苦しい息の下で、私のことを気遣ってくれたというのですか...
「…ありがとう」
私は泣きながら、いつまでも感謝の言葉を呟いていた...
雪を渡すのは、間に合わなかったけれど、貴方はそれでも良かったのですか?
最期の時に一緒に居てあげられなくて、ごめんなさい...
でも、一つだけ言わせてください...
私も、貴方のことが大好きでした...
いいえ...貴方のことが大好きです...
今も...
雪を見るといつも貴方を思い出します...
貴方の大好きだったものだから...
本当に・・・。
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前世の記憶
親父との大切な時間