父親にはもうひとつの目的があったんだ・・・。この話を聞いて私は泣いた・・・。
その話は私が8歳だったころ、日曜日に父親が私を、買ったばかりの白いコロナで買い物に
連れて行ってくれた...私は野球板を買ってもらって(年がばれる・・・)大喜びして
いたんだけど、父親にはもうひとつの目的があった...
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その年、私の両親は結婚10周年を迎えていたんだ...父親はいわゆる猛烈サラリーマンで、
あまり家にいなかったから、私はむしろ、お母さんとの結びつきを強く感じながら育った...
だからその日も、車の助手席に乗っていてなんだかちょっとだけ居心地が悪かった
印象がある...
父親は、ケーキを作るための材料をたくさん買った...そして家に帰って、本を読みながら、
父親と私は2人で一生懸命ケーキを作った...何回やってもダマダマになってしまって、
どうやってもお母さんが作るみたいなおいしいケーキはできなかった...
ようやくできたケーキをコロナの後部座席に乗せる...父親はアクセルもブレーキも静かに静かに踏んで、
病院に向かう...お母さんはそのとき、私の妹になるはずだった子供を流産した後の経過が悪く、
入院していたんだ...
病室のお母さんにケーキを届けると、お母さんはとても喜んでくれた...すごく嬉しい...こんなにたくさん、
とても一度に食べきれないよ...だから、今、一緒に食べよう...でもね、隣のベッドの患者さんは、
誰も身寄りがない人なの(そのときはちょうどいなかった)...だから、3人で車のなかで
食べようよ...
最初は父親が助手席に座って、お母さんと私は後部座席に座った...だけど、お父親さんだけ前じゃ
寂しいよってお母さんが言って、私たちは後ろの座席に三人並んでケーキを食べた...肘が当たったりして
窮屈だったけど、父親もお母さんも私もいっぱい笑って、すごく楽しかったんだ...
お母さんの病状は、それからしばらくして回復した...
それから13年後、私の家にはまだそのコロナがあった...あの日以来、父親は家族三人をたくさん
ドライブに連れて行ってくれるようになった...免許を取った私が初めて運転したのもそのコロナ
だった...
17万キロを走ったコロナは、駐車場が露天だったせいもあって錆がひどく、室内の雨漏りも
するようになっていたので、父親も買い替えを決断した...
新しい車が来る日、私が昼近くになって起きると、台所で父親とお母さんが2人で何か作っていた...
寝ぼけ眼の私だったが、すでにだいぶ前から、家族の中で一番力が強いのは私になって
いたから、お母さんは迷うことなく私に泡立て器を持たせた...
そして、あの日と同じように、三人でコロナの後部座席に並んで座って、ケーキを食べた...
ケーキを口にした瞬間、いろんな思い出が走馬灯のように私の脳裏をよぎって、涙があふれた...
お母さんは子供みたいに声を出して泣いた...父親はずっと窓の外ばかり見ていた...
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