私は良いところなど一つも無いと言って良い程、嫌な人間だった...
見た目に自信は無く頭も良くはない...そして、人に平気で嘘を吐く卑怯者だったんだ...
私に構う人など誰も居なかった...もちろん避けられている訳じゃないんだ...だけど私に興味を持つ人も居なかった...
私自身、それで良いと思っていた...
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そんな時、私は彼女に出会ったんだ...
私の言う『彼女』というのは、高校の同級生のことだ...席が隣というだけの、特別でも何でもない関係...
だけど彼女の笑顔がとても眩しくて、いつの間にか一緒に居たいと思うようになっていた...
卑怯な私は、彼女に好かれたいがために色々な嘘を吐いたんだ...
彼女は私の嘘に気付いていないようで、話を真剣に聞いてくれた...
彼女の意識がこちらに向いているだけでとても幸せになれた...
その後、私たちは次第に仲良くなり、付き合うに至った...
その時に決めたことが1つ...絶対に嘘や隠し事はしないこと...
私は正直困った...だけど、嘘吐きは今更やめられない...
付き合い始めても私は今までのままだった...
付き合い始めてから半年が経ち、2人で桜を見に行くことになった...
私はその日テストで赤点を採ってしまったため補習に出なければならなかった...
彼女にそんなところを見られたくない...知られたくない...
「ごめん...その日は習い事があるから…」
私はやはり卑怯者だから、嘘で誤魔化した...彼女は信じて疑わなかった...
お花見は予定していた日の翌日に延期となった...
そして、花見当日...
集合場所に行ってみると、彼女は肩を怒らせてそこに居た...
事情を聞いてみると、前日の補修のことがばれていた...先生から聞いたと言う...
「何で嘘なんか吐いたの...隠し事なしって約束したのに」
彼女の目には、涙が光っていた...
「別に私は頭悪いのが嫌だなんて一言も言ってないのに...それならそれでちゃんと言ってよ...私は、嘘吐きが一番嫌い」
彼女は走り去った...集合場所の目印だった満開の桜の木の下に、涙の雫が幾つも落ちていた...
地面に吸い込まれてしまっていたから、もしかするとただの水かもしれない...だけど私はそう思った...
別に人に嫌われても良い...
前まではそう思っていたはずだ...でも、恐れが止まらない...もし彼女に愛想を尽かされたら…、と...
自業自得なのだ...例えそうなったとしても、自分が悲しむ資格など無い...
それでも、一度手にしてしまった幸せを手放したくなかった...
数日後、私は彼女に謝るべく彼女の家を訪れた...
彼女は、
「ごめんね...私、怒り過ぎちゃった」
と逆に私に頭を下げた...
桜は彼女の一番好きな花らしい...だからこんなに怒ってしまったのだと、彼女は言った...
彼女が謝ることじゃない...そうは思ったが、なぜか私は頭を下げることが出来なかった...やはり私はダメ人間だ、と心から思った...
傷つけたはずなのに、彼女は何事も無かったかのように私に接してくれる...申し訳ない気持ちで一杯になった...
それ以来、私は嘘を吐かないように心掛けている...
そんなある日のこと...
彼女に脳腫瘍が見つかった...
部位的に切除は難しいとのことだった...
そう言われてみれば、最近確かに彼女の様子はおかしいような気がした...何でもっと早く気付けなかったのか...そればかり悔やんだ...
彼女は泣いていた...私も一緒に泣いた...男が泣くなんて恥ずかしいかもしれない...それでも泣かずにはいられなかった...
何度も運命を呪った...でも既にどうしようもなかった...
彼女は入院した...だが放射線治療も虚しく、脳腫瘍はそのまま、いや寧ろ大きくなって行った...
やがて医師から、余命三か月を宣告されてしまった...
辛いはずなのに、彼女は笑っていた...それどころか、
「次のお花見までは頑張るから大丈夫!」
なんて言っている...
医師の言ったことが本当だとしたら、それは間に合わない...
「一緒に頑張ろう」
これは決して嘘なんかじゃない...心から、そう思ったのだ...
彼女は大きく頷いた...
だが、彼女の容体は日に日に悪化して行った...
脳腫瘍のせいか、身の回りのことが段々分からなくなって行く...
そんな彼女を私は祈るような気持ちで見つめていた...
余命宣告の三ヶ月は乗り越えた...
しかし桜の季節はまだ来ない...到底、間に合いそうもなかった...
それどころか、後一日か、二日か…...
私は悲しい気持ちで一杯になった...
私は、彼女の最後のお花見を、悲しい思い出にしてしまったのだ...
次こそはきちんとしようと思っていた...あれから嘘は吐いていない...
赤点など採らないように、頑張って勉強もしていた...
きっと次なら、彼女と楽しい時が過ごせる...
それなのに『次』は彼女にやって来ない...
彼女の病室に行くと、彼女はこう言った...
「ねえ…窓の外を、見て…桜のつぼみが膨らんでいるでしょう?」
そんなものは見えるはずがない...もしかすると、彼女は幻覚を見ているのかもしれない...
私が答えに迷っていると、彼女は不安気に私に言った...
「次こそは、楽しい思い出に…しようね?」
嘘や隠し事はしない約束...だけど今ここで『無理』と言ったら、彼女は悲しむだろう...
最後くらい、幸せな気持ちでいて欲しかった...
「うん...絶対、一緒に見るよ」
今日だけは、嘘を吐いてもいいよね...
今この瞬間だけは、許してくれるよね...
心の中では泣いている...私の表情は笑っている...もしかしたら引き攣っていたかもしれない...
でも、それにつられたように、彼女に笑顔が戻った...
そして彼女はこの世を去った...
私はその前の日に、病室中に桜を飾っておいた...もちろん偽物だ...物置から引っ張り出して来たから、色褪せている...
でも、彼女は嬉しそうだった...
「桜、一緒に見れたね」
最後の一言だった...
今までで一番泣いた...こればかりは、プライドなんて関係なかった...ただただ悲しかった...
私は彼女と出会って、変わった...
約束は守っている...
あの時に頑張った勉強が実を結び、それまでは考えられなかったような場所で働いている...
ルックスは相変わらずだが、そんなことはどうでも良い...
今度天国に行って彼女に会った時誇れるような自分でありたい...
だけどそれまではこの一言に尽きる...
本当に本当に、ありがとう...最後の最後の嘘です・・・。
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